NPO法人チェンジングライフ

貧困や非行等の理由で自立困難な状況にある、青少年の自立支援をしています。

「夜中でも駆けつけるという美談。」#1〜#4

「夜中でも駆けつけるという美談。」#1〜#4
#1
支援者が、支援対象者から、
援助要求があったとき、それが、夜中でも、駆けつけて、手を差し伸べる。
それは、ドキュメンタリーでも、記事でも美談とされる。
駆け出しの頃は、自分でも、美談だと思い、そうしようと努めて来た。
しかし、それは、援助要求の内容を精査しないと相手のために動くことがかえって、相手の依頼心だけを助長させ、自立心の成長を阻害し、イネイブリングするだけになってしまう危険性も伴う。そういう手痛い失敗を山ほどしてきた。
薬物の問題。深夜徘徊の問題。暴力の問題。
自傷行為。眠剤のOD。窃盗癖…などなど、
それぞれの抱えている課題や犯罪傾向等によっても、SOSに対して、どう動くか、決まりきった対応はない。
社会内処遇の現場では、あらゆる予期せね、出来事が起こる。失敗や経験を積み重ね、そこから学び、また、先進事例や他団体の実践例を学ばないと、その人のためになる支援が遠ざかってしまう。
さて、今日は、朝の5時にサポートをしている少年から着信あり。
私は夜の0時から、朝の8時くらいまでは、基本的に、電話は出ない主義。出ないというより、日中、しっかり活動するため、寝たら基本起きない。それが、長く支援者を続ける秘訣。
無理して、感謝され、良い気になっても、
精査なき支援は、相手も自分をもダメにしてしまう。繰り返すが、そういう失敗をして、相手も自分もダメージを受けた。しかも、失敗から学ぶことはあるが、一度の失敗がその後の関係性を一生、左右してしまうことがある。
今朝の少年は、知り合ってから、一年くらい経つが、実に、一生懸命、社会で就労に挑戦し、頑張ってきた。その姿を見て来たので、何回かの着信の後、たまたま、目を覚まし、寝ぼけながら、並々ならぬ事情ではないか。と思った。
別に朝9時以降に、電話を折り返しても良い。
しかし、今まで、夜中の非常識な時間に電話して来たことが一度もない少年。
これは、身体がしんどくても、緊急性が高いかもしれないと思い、折り返した。
ところが…
#2
~ところが…の続き~
電話口で少年は言った。
「こんな時間にすみません。実は警察に補導されました…。刑事さんに代わらしてもらっていいですか。」
電話口は刑事さんに代わり、事情を一通り聞いた。話しをききながら、逮捕でなく、補導で良かったと安堵した。
さらに、刑事さんは、親御さんに連絡したが、柄受けを拒否されたと。
また、年齢的に一時保護(身柄付き通告)も検討されていると。
「野田さん、本人を普段から、お世話されていると聞いていますが、迎えに来てくださることは可能でしょうか?
親御さんからは、野田さんという支援者に柄受けに来てもらうことに許可をもらっています。」
私「本人に代わってください。」
少年が電話口に出ると、苦言を呈し、
注意をした。
そして、こう伝えた。
「今まで、頑張って来たこと知ってるから、今回は柄受けに行くけど、次、同じことしたら、迎えに行かないから。
しっかり、反省して、迎えに行くの時間かかるけど、待っておくように。」
「ほ、ほんまにすいません。わかりました。」
実は、私自身、この日は、援助ホーム宿直中であった。就労の子ども、高校生の登校を見送ったのち、代わりのスタッフに急遽、来てもらい、眠い目をこすりながら、ハンドルを握った。

#3
高速を一時間走らせた先に少年が補導された、警察署があった。
朝8時台の警察署は駐車場もガラ空きだった。
扉を開き、受付で名前を告げると、2階から、若い刑事さんが降りてきた。
頭を下げて、2階に上がり、身柄引受の書類に記入した。署名後、ハンコありますかと聞かれ、首を横に降ると、指印で良いとのこと。
右手人差し指を黒色朱肉に押し付け、指印を押した。
そこに、衝立ての向こうから、年配の刑事さんに連れられて、少年が歩いて来た。
少年は悪びれることなく、少し肩をすぼめて、小さく頭をペコリと下げた。
・・・
今回、親御さんが、息子さん(少年)の柄受けを拒否されたのには、今までの文脈があると理解している。
普段、よほどのことがない限り、夜中に対応しないのは、私達の団体の方針であるが、今回に関しては、応援者である大人が万障繰り合わせて、迎えに行くことで、「自分は一人ではない。」ということ。そして、親御さんは考えがあって、来られなかったけど、チェンジングライフの人は来てくれたと、愛を示したかった。
結びになるが、夜中にでも駆けつけるというのは、一般的に、相手を思って、自己を犠牲にできる美談に聞こえるが、
長くその人と関わろうと思えば、ただ振り回されて終わるだけの関係になってしまう危険性がある。
なので、私たちは、援助要求に対して、いつでも、どんな時でも、助け船を出すことが、長い目で見て、相手の為になるかどうか、という点は、慎重深く判断するように心がけている。
支援者の負担が倍増する夜中の対応に関しては、助け船を出す回数で境界線を引いたり、内容で境界線を引くようにしている。
境界線なき援助は、支援者も支援対象者も不健全な関係に陥らせ、前はこうしてくれたのにと不満を募らさせ、いつか、お互いが疲弊して、関係が破綻する可能性が高くなる。
そうは言っても、やはり、判断は難しく、
いつも、正解はない。試行錯誤の連続。
ただ、過去の失敗を次に生かしたいと、強く願い、判断基準の参考にしている。
(#4 に続く)

#4(最終回)
おそらく、今回、朝方に警察署に迎えに行くことを通して、少年を大切に思っていることは伝わったと信じたい。出来ない約束はしない。出来ない約束をして、出来なかったら、真摯に謝る。相手のためになるか、どうかの視点で出来ることをする。その地道な試行錯誤が人間信頼の貯金となると信じている。
しかし、それをしたからといって、少年が、もう失敗をしないとか、再非行しないというのは、別の話しだ。それが、支援現場の現実だと感じている。
だけど、人間信頼の貯金があれば、
凶悪化を防げる可能性が高くなり、また、非行の程度を徐々に減らすことか可能になってくると、関わってきた青少年から教えてもらってきた。
夜中、明け方の対応は、相手のためになるのであれば、必要だし、特に、長い伴走期間を思えば、すぐに、対応しないこと、時間をずらすこと、自分でも自分のしたことの結果を刈り取らせる経験を奪わないことも肝要だと感じている。
以下に、自立援助ホームでの深夜対応の事例から、子どももスタッフも成長できたことをお話して終わりたい。
Gは、15歳で援助ホームに入所した。
実は、夜がたびたび眠れず、就労に就くようになってから、入眠困難な状態が顕著になった。
Gは、もし起床時間に起きれず、出勤の時間に間に合わなかったらどうしようと不安になると、余計に焦りが生じ、いてもたってもいられなくなるようだった。
ホームのルールである、23時消灯の時刻に近づけば近づくほど、居室の壁を殴り付ける音がホームに響いた。
そして、ある程度、目をつぶって、寝ようと努力しても時間だけが経過し、いてもたってもおれず、Gは、23時消灯のルールを破り、宿直室をノックし、眠れないとスタッフに訴えてくる。
「消灯のルームを守って静かに寝なさい」
とあしらうことは、不可能ではないが、
寝たふりは出来なかった。
そして、扉を開き、話しを聞く。
話しを聞いても、眠れるわけではない。どうすることも出来ない。
スタッフは翌日の業務もあるので、早く休みたいが、時には、そこから、丑三つ時の傾聴時間が始まる日もあった…。
ある日は、宿直室に布団を引かせ一緒に朝まで過ごした。
また、ある日は、スタッフも寝不足になり、翌日の業務にも影響が出た。
幸い、宿直者は交代制であるため、このケースに関しては、夜中に、幾度も対応することになった。
(一人で毎日は不可能)
このケースに関しては、許される範囲、向き合った。もちろん、Gにとっても、毎日、スタッフを起こしたわけではないし、いてもたってもおれず、した行動だった。
また、ある日は、あるスタッフに対して、用量以上の入眠剤を出して服用させてほしいと
胸ぐらをつかんできたこともあった。
何となくスタッフとの関係性や言いやすいスタッフに弱さをさらけ出した。そんなこんな
で、私たちも一緒に困っているうちに、いつの間にか、スタッフルームに夜中に来ることはなくなった。
現在、Gは退所して2年近くになるが、何と、入眠剤がなくても、眠りにつけ、仕事も頑張れている。

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